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電総研ニュース(1997年)


 

575号(1997年12月)

574号(1997年11月)

573号(1997年10月)

572号(1997年9月)

571号(1997年8月)

570号(1997年7月)

569号(1997年6月)

568号(1997年5月)

567号(1997年4月)

566号(1997年3月)

565号(1997年2月)

564号(1997年1月)


575号(1997年12月)

超音波による肝繊維化量の定量診断をめざして

基礎計測部 菊池 恒男

 肝炎や肝硬変に伴って肝臓中に生じた線維化組織の量を定量的に診断する手法について研究を行っている。人の肝臓からの超音波エコー波形のパワースペクトル(PS)形状の複雑さ(凹凸の度合い)を、フラクタル次元(FD)で数値化することにより、線維化量を測定することができる。PS形状は、組織中の散乱体の密度に依存する。従って、その形状を数値化することにより、散乱体の量を推定することが出来る。一方、FDは、図形の複雑さを数値化するのに適している。
 本研究では、まず、ラットに薬物を投与して肝臓中に人工的に線維化を発生させた 後、摘出した肝臓を水中に置いて、超音波エコー波形の収集・解析を行った。実験の 結果、PS形状のFDは、別途測定したラット肝臓中の線維化量と、良い相関を示した。
 次に、既存の超音波診断装置を改造し、人間の肝臓からのエコー波形を収集・解析するシステムを試作した。その装置を用いて、正常者と肝硬変患者それぞれから、肝臓からのエコー波形を収集・解析した。実験の結果、正常者と肝硬変患者それぞれのグループの間で、FDの値に違いが見られた(図1)。しかしながら、線維化量とFD値の大小関係は、人で得られた結果とラットで得られた結果で、逆であることがわかった。これは、組織構造のサイズ、使用した超音波の周波数の違いなどが関係していると思われるが、引き続き検討中である。現在、症例数を増やすため、臨床実験を続けているところである。
 尚、本研究では、福島県立医科大学第一内科及びアロカ株式会社と、共同研究を行 っている。

図1:正常肝臓(NORMAL)、及び肝硬変患者(LC)で得られたFDの深さ依存性(2cm付近の大きなピークは肝表面に対応)


 

574号(1997年11月)

フェムト秒レーザーの位相雑音測定法を開発
−位相復調を利用したパルスタイミング揺らぎの高精度計測−

光技術部 土田 英実

モード同期レーザーの進歩によりフェムト秒領域の超短光パルスが得られるようになり、種々の分野で利用されている。当所ではフェムト秒光パルスの位相雑音(パルスタイミング揺らぎ)を高精度に計測できる新しい技術を開発した。スペクトル領域で位相雑音を評価する従来の測定法では、周波数帯域、分解能、ダイナミックレンジの制限や振幅揺らぎの影響のため、広帯域に渡って高精度評価することは困難であった。上記の問題点を解決してより定量的な評価を可能にするため、位相変動を時間領域で直接復調してスペクトルを計算する測定法を開発した。この方法を用いて半導体レーザー励起Cr:LiSAFレーザーの位相雑音を評価し、フーリエ周波数10mHz-100Hzの低周波領域の測定を初めて可能にした。


超伝導体における電流ー電圧特性、電流分布の新たな評価法
−履歴磁化の磁場掃引速度依存−

極限技術部 馬渡 康徳,澤 彰仁,小原 春彦,梅田 政一,山崎 裕文

ディスクや円柱形状の超伝導体における履歴磁化の磁場掃引速度依存性から、電流−電圧特性を評価する新たな方法を提案する。電場 E や 電流 密度 J の分布を考慮し、磁化の磁場掃引速度依存性を示す表式を任意の電流−電圧特性 (E-J 特性) に対 して導いた。また、YBa2Cu3O7 ディスク試料における磁化の磁場掃引速度依存性を測定して E-J 特性や電流分布を 実際に評価し、低電圧、低電流領域における精密な電流−電圧特性の評価 に有用であることを実証した。この方法によって、リングなどの形状への加工が困難な超伝導単結晶、バルク試料の詳細な特性評価が可能になり、超伝導体における磁束ダイナミクスに関する物性研究が大きく進展することが期待される。


573号(1997年10月)

半導体中の電子の流れを超短時間で見ることに成功

光技術部 フェムト秒光エレクトロニクスラボ 永宗 靖渡辺正信

半導体は光を吸収すると、その後徐々に放出する性質がある。この性質をうまく利 用すれば、集積回路等の中で電子が高速に移動している様子を、光で知ることができ る。最近、半導体量子井戸・量子細線内における電子流の可視化技術を高時間分解で 行うことが可能となった。 図は、明るい部分にのみ電流が流れるようにパターニングを施した半導体量子井戸 の面内において、上から右へ定常電流を流している状態で、パルス幅200フェムト秒 のレーザー光を照射した後の測定結果である。量子井戸からの発光像を超高速で撮影 し(空間分解能1μm、時間分解能90ps、試料温度85K)、照射後0.1, 1.1, 2.1ナノ秒後の発光像と試料像とを合成してある。発光像の明暗は明るさそのものでなく、その等高線を表している。 発光像の位置は、電子流に乗るかたちでカーブしながら移動しているのが分かる。 これは、レーザー照射によって発生した少数キャリアーの正孔と電子が束縛状態をつ くることによって形成される励起子が、多数電子の流れによって、それと同じ方向に 押し流されていることによる。多数電子の流れを間接的にではあるが、二次元の時間 分解写真として捕えた世界最初の例である。 ここで述べた新しい測定法は、半導体素子内を二次元的に流れる電子の様子を直観 的に理解する有効な手段であるとともに、高時間分解で観測できるので、半導体の基 礎物性の研究や素子性能などの詳細な評価に非常に有効となると期待される。

図:200fsパルスレーザ照射後0.1, 1.1, 2.1 ナノ秒の発光像。


572号(1997年9月)

ポンプ・プローブX線分光法と励起状態の局所構造
−カルコゲンガラスの光融解と欠陥構造に関する新しい知見−

電子基礎部 表面物性ラボ アレックス・コロボフ大柳宏之田中一宣

これまでカルコゲンガラスの「スピンをもたない欠陥の謎」を説明するため、クー ロン相互作用を重用視した3配位と1配位の荷電欠陥ペアが提案され精力的に研究され てきたがその存在を直接的に検証することはできなかった。このたび光励起中の電子 状態や原子配列を調べることができる新しい分光法(ポンプ・プローブX線分光)を 開発し、アモルファスセレンを例として低温での光励起によって液体にみられる3配 位欠陥ぺアが生成されることをみいだした。このような欠陥ぺアは光励起により局所 的に生成・消滅するため時間的、空間的な平均構造ではみることができないが、低温 で光照射しながら局所構造を調べることにより、配位構造が励起により変化すること がはじめて観測できた。欠陥ペアが形成されて生じる鎖間結合は局所的に格子を歪ま せる。増大した構造ゆらぎは低温で凍結されるが、ガラス転移温度付近での熱処理に より安定相に戻る。これにより光学吸収端が光照射によって低エネルギーにシフトす る光黒化現象(Photodarkening)や光照射により流動性が高まる現象(光流動)が励 起による配位構造の変化によることが明らかになった。

図:光励起による欠陥ペア生成の過程。歪みエネルギーの増大はクーロン反撥の減少 と共有結合エネルギーで補われる。


プラセオジム・バリウム・銅123酸化物単結晶において超伝導発見

電子基礎部 岡 邦彦,鄒 志剛,伊藤利充西原美一

PrBa2Cu3O7-yはREBa2Cu3O7-y(RE=希土類)の中で唯一超伝導を示さない物質として一般に知られており、非超伝導体として応用面で広く用いられていた。このほど特定の結晶育成条件と熱処理条件のもとでバルク材として超伝導を示す結晶が得られることを世界で初めて発見した。フローティングゾーン法により低酸素分圧の雰囲気中で育成し、その後酸素中で熱処理した結晶が約80Kの超伝導を示した。この成果は従来の常識をくつがえすもので、 RE-123系の超伝導発現機構について、新たな観点からの検討が必要であることを示唆し、物性科学的興味ばかりでなく、RE-123系全体の特性制御、素子開発研究に新たな展望を切り開くことになるものと期待される。


571号(1997年8月)

臨界歪みの実験的検証に成功
−格子歪みによる原子移動−

電子基礎部 大柳宏之

電子デバイス部 松畑羊文

光技術部 ポール・フォンス

現シャープマイクロエレクトロニクス ダグラス・トイート

格子定数の異なる基板へのエピタキシャル成長(ヘテロ成長)にみられる歪みの効果は成長機構そのものに重大な影響を及ぼすと同時に欠陥や転位などを導入し結晶の質を左右する。格子不整が大きい成長ではこれまで長い間「臨界厚み」と呼ばれる特定の厚みまでは、格子整合しながらエピタキシャル成長し、それを越えると格子は緩和しミスフィット転位が導入されると考えられてきた。このたびIIIV半導体結晶成長への歪みの効果を定量的に明らかにすることに成功し、「臨界厚み」に代わる新しい概念として「臨界歪み」が存在することを実験的に証明した。構造が1.3mm領域の半導体レーザー材料として期待されているInAs1-xPx混晶薄膜をモデル物質として高分解能X線回折(図1)により成長層の格子緩和を系統的に調べ、臨界歪みが成長様式を支配するパラメーターであることをみいだした。すなわち臨界厚み (e=1.9%)より格子不整合が大きい場合には歪みによる原子移動が促進され中間的な組成をもつ界面層が形成されるが、それ以下では抑制され格子に整合したエピ成長が可能であることが明らかになった。

図1:基板温度620!CでInP(001)上に成長したInAs0.6P0.4 (e=1.9%) (a) およびInAs0.4P0.6 (e=1.3%) (b) のInP(004)ピーク付近のX線回折パターンを示す。臨界歪み (e=1.9%)を境に界面の原子移動によるピークBが出現する。InAs1-xPx混晶は気相成長法の一種であるOMVPE法を用い住友電工において作製された。


570号(1997年7月)

高温酸化物超伝導対ポテンシャル対称性と密接な関係があるゼロバイアストンネル伝導度異常

基礎計測部 柏谷 聡高島 浩,Lambert Alff,小柳正男

材料科学部 寺田教男伊原英雄

電子基礎部 岡 邦彦伊藤利充

次 長 梶村皓二

新潟大学理学部 田仲由喜夫

高温超伝導体の電子素子への応用ならびに高温超伝導発現機構の解明のために、高 温超伝導体表面における電子状態ならびに超伝導性の空間分布を調べることは重要で ある。我々は、この目的のために数Åの空間分解能を有する低温走査型トンネル分光 装置を利用して、高温酸化物超伝導体表面を調べた。その結果、従来の超伝導体では ほとんど見られないゼロバイアストンネル伝導度の異常をしばしば高温超伝導体の特 定の面で観測した。このゼロバイアス伝導度の異常が、超伝導対ポテンシャルの符号 が方向により変化するような異方性超伝導表面に生じるゼロエネルギー状態に起因す ることを実験的、理論的に明らかにした。図は(110)配向YBa2Cu3O7-d薄膜表面において観測された伝導度スペクトルである。点線で理論曲線を示してある。


4.2 Kにおける(110)配向YBCO薄膜のトンネル伝導度スペクトル。
点線は、d-波超伝導から予測される理論曲線である。


569号(1997年6月)

サブマイクロセカンドの有機光制御素子を目指して

有機ナノパーティクル素子ラボ(http://www.etl.go.jp/~4826)

日本ビクター(株) 上野一郎

超分子部 平賀 隆

次世代光スイッチが電界印加動作の液晶素子に続く高速応答光素子として期待され ている。われわれは、光学素子に光を照射することで引き起こされる透過率変化や屈 折率変化を利用し、制御光で直接信号光の強度や周波数を変調可能な全光型光学素子 による新たな情報処理技術の開発を目指して、有機色素凝集体をポリマーマトリック スに分散した有機ナノパーティクル光薄膜素子を用いて光制御方式の研究を行ってい る。動作原理は、制御光照射により素子が非線形の変化を起こして形成される熱レン ズ(凹レンズ)により、信号光の透過率が変化することを利用したもので、従来は光 材料分析への利用に留まっていたが、光情報処理やディスプレイなどへの応用が可能 な光制御方式として開発を行った。

 


希薄磁性半導体Cd1-xMnxTe光導波路を半導体基板上に実現
−光集積回路を目指す磁気光学光導波路−

材料科学部 スピン機能材料ラボ 安藤功兒,Wadim Zaets

磁気光学効果を用いた光アイソレータや光サーキュレータは光情報通信処理システ ムの構築に不可欠なデバイスである。従来磁気光学材料には磁性ガーネットとよばれ る酸化物結晶のみが用いられてきた。しかしながら酸化物結晶を半導体基板上に成長 させることは困難であり、磁気光学デバイスとレーザなどの他の半導体光デバイスと を一体的に集積化して光集積回路を作製することは不可能であった。今回、電総研で はGaAsと同じ結晶構造を持つ半導体でありながら大きな磁気光学効果を示すCd1-xMnxTe薄膜に注目し、これを用いた磁気光学導波路をGaAs基板上に形成することに成功した。現在高機能かつ高信頼な光集積回路の実現を目指し、その光損失機構やデバイス化の検討を行っている。

 


568号(1997年5月)

酸素添加型熱電子発電器の開発
−性能指数1.9Vの高効率化を達成、実用化に目処−

エネルギー部 福田隆三

熱電子発電器は高温電極から放出される電子(熱電子)を利用して熱エネルギーを電気エネルギーに変換する発電素子です。電総研では、エミッタにタングステン,コレクタにAgOxの酸素添加型熱電子発電器の開発を行い、電極間距離d=0.1mmの場合出力電圧0.6V,出力電流密度5.2A/cm2,出力密度3.1W/cm2、バリアインデックス1.9V、の世界最高レベルの発電出力を達成しました。熱電子発電器の変換効率が30%をクリアすると様々な用途が開けてきますが、地上用途として一般需要家の熱−電気コジェネレーションが可能となり、その実用化が期待されます。

 


励起種分子線エピタキシーによるIII族窒化物半導体結晶成長に新展開

材料科学部 奥村 元吉田貞史

GaNなどのIII族窒化物はSiやGaAs等に比べて研究が進んでいなかった材料であるが、Si等では対応できない要求が昨今顕在化してきており、それらの分野で有望なワイドギャップ半導体材料の一つとして期待が高まっている。我々は、結晶成長制御が困難であったIII族窒化物に対し、MBE成長で原子状窒素を主体とするプラズマを用いて成長速度の向上を図ると共に、極めて平坦な成長面を実現してその表面構造を観察することにより成長条件を最適化する手法を見いだした。この結果は、窒化物半導体の材料特性を活かした新しいデバイス応用への道を開くものと考えられる。

 


ビスマスの自己停止作用を利用した多元系酸化物薄膜の新しい成長法

電子デバイス部 右田真司河西勇二酒井滋樹

原子層制御分子線エピタキシー法によるビスマス系超電導酸化物の素子用薄膜作製技術の研究の中で、我々は、分子線ビスマスが膜に取り込まれる割合が製膜しようとするビスマスを含む化合物の種類によって著しく異なることを発見し、これを成長自己停止作用として利用する新しい製膜法を考案した。この方法を元素比がBi:Sr:Ca:Cu = 2:2:0:1であるBi2201製膜に適用し、高品質で再現性のよいBi2201の作製に成功した。超電導性や誘電性を示す他の多くのビスマスを含む酸化物にもこの製膜法の応用が期待される。

 


567号(1997年4月)

ニオブ(Nb)系単一電子トランジスタの室温動作

電子デバイス部 白樫淳一松本和彦

単一電子トランジスタ(SET)は電子を一つずつ制御して輸送する事が出来るため、従来には無い新しい機能性素子としての期待が高まっている。SETは素子の微細化が動作温度の向上と直接的に結びついており、室温動作を達成するにはnmオーダーの微細加工技術が必要である。このような観点から、原子オーダーの分解能を有するSTMやAFM等のSPM探針を陰極とし、陽極酸化反応により金属極薄膜に対してnmオーダーの選択酸化を行うSPM超微細酸化法を開発した。更に、(SPM超微細酸化法と組み合わせることでその微細化限界を越える事が可能な)新しい微細構造作製手法である熱酸化法を開発した。これらの手法をニオブ(Nb)極薄膜に適用し、非常に微細なNb/Nb酸化物トンネル接合を有するNb系SETを作製した結果、室温に於いてクーロンブロッケード電圧の変調特性やクーロンブロッケード振動特性を観測し、単一電子帯電効果を確認することに成功した。これより、SPM超微細酸化法と熱酸化法により作製されたNb系SETに於いて室温動作が可能な事が初めて示された。

 


566号(1997年3月)

非線形光学効果によるSiエッチング表面反応のピコ秒観測技術
― 原子層レベルのエッチング技術の実現を目指して ―

電子デバイス部 原市 聡

材料科学部 佐々木史雄

現代情報化社会を支えるシリコン(Si)集積回路技術は、21世紀初めに100nm以下のパターン寸法領域に入ることが予想され、微細加工プロセス技術の一つとして極限的な精度のエッチング技術が必要となる。さらに将来のナノメーターあるいは原子スケールの構造を作製するプロセスにおいて、極限的なプロセス精度や低損傷性を実現するためには、個々の原子の反応に対するミクロな反応機構の理解が不可欠である。このため個々の反応を引き起こすエネルギーの緩和時間である、ピコ秒(10-12秒)以下の時間分解能でエッチング反応を観測する必要がある。
我々は原子層レベルで反応を制御する極限的なエッチング技術の実現を目指して、 半導体表面における非線形光学効果を利用した高い時間分解能のエッチング反応ダイ ナミクス観測技術の研究を進めている。今回Siエッチング反応に伴う表面構造や電子 状態の変化を、ピコ秒領域の時間分解能を持つ手法により観測することに成功した。

 


565号(1997年2月)

論争支援マルチモーダル実験システム

知能情報部 新田克己

Mr.Bengoは、音声や画像や自然言語を統合的に処理する「マルチモーダル情報処理」の研究と、高度な推論を機械化する「論争支援システム」の研究の有効性を評価するため、これらの研究成果を1つのシステムにまとめたものである。Mr.Bengoを起動すると、原告、弁護士、裁判官が画面に現われる。それぞれが、目と耳と口と表情と頭脳を併せ持っているので、ユーザはキーボードにふれることなしに、弁護士と相談しながら法廷論争を疑似体験することができる。

 


希釈磁性半導体量子井戸におけるキャリアースピンの高速緩和

材料科学部 秋本良一佐々木史雄安藤功兒

21世紀における超情報化社会の到来に向けて、テラビット級の情報の高速処理技術が必要とされている。この点で、高速動作が可能な全光スイッチはそのキーデバイスの一つであり開発が急がれている。当所では、分子線エピタキシー法により、通常の半導体に磁性イオンを導入した比較的新しいタイプの半導体量子構造を用いることにより、キャリアーのスピン緩和を利用した全光スイッチを、原理的にさらに高性能化できることを実証した。

 


新工夫による単一の分子からのスペクトルの観測
−量子スケール光電子相互制御への一里塚−

材料科学部 谷 俊朗,マーチン・バッハ,LIU-Yi

電子デバイス部 伊藤順司,古室昌徳

固体中や固体表面の量子スケールの構造物について,それらの集団としての平均値 ではなく,単一の構造の光学的スペクトルを計測することは,基礎科学としての重要 性に加え,将来のマイクロエレクトロニクスにとっても不可欠の技術要素である。そ の様な手法の一つと位置付けて進めている単一分子分光の研究で,ロッド型マイクロ レンズを用いた小型かつ無調整で高集光効率の微小集光光学系の試作に成功し,S/N 比の改善を始め良好な動作結果を得た。

 


564号(1997年1月)

音響通信を用いた深海臨時観測システムの研究に着手

エネルギー部 飯高 弘斎藤俊幸

基礎計測部 佐藤宗純

運用を停止した海底通信同軸ケーブルが広範囲に張り巡らされている。沖縄本島からグアム島にいたる全長2,550Kmの海底通信同軸ケーブル「TPC-2」が平成6年春に運用を停止したのを契機に、これを用いた地震等多目的地球環境モニターネットワークの開発研究が平成7年度から科学技術庁で推進されている。その中で当所は,省電力化を最優先しつつ音響通信を用いた臨時観測システムの研究に着手した。当研究は,深海に設置した観測機器をつくばの研究室において遠隔制御することを目指して進めている。研究室と観測機器との間の通信には、音響システムおよびTCP-2を利用する。現在までに水槽実験を通して2W程度の供給電力でも当システムを駆動し得ることが分った。


電界発光性高分子の光誘起ポーラロンの観測に成功

電子基礎部 村田和広下位幸弘

電界発光性導電性高分子は、将来のフラットパネルディスプレーなどへの応用が期待されているが、その導電機構・発光機構などの理解はまだ十分ではない。基礎的な観点のみならず応用的な見知からも、まずその素励起状態であるポーラロン状態の正しい理解が重要である。当所では高感度で局所情報が測定できる磁気共鳴法に注目し、導電性高分子の素励起状態の解明を進めてきた。最近、独自に開発した強力単色光照射装置を用いてPPVの光誘起されたポーラロンのESR信号の検出に成功した。観測されたESR信号は理論的に見積もられるポーラロンのスピン密度分布および励起エネルギー依存性とも良く一致し、実験および理論的に光誘起ポーラロンの存在を確認した。

 


電総研ニュース